第62回定例会 活動報告(2025.10.27)

サステナ研の10月例会では、研究会のメンバーで公益社団法人2025年日本国際博覧会協会の持続可能性局長の永見さんに「大阪・関西万博の持続可能性と中小企業」をテーマに、講和いただきました。

万博の運営を通じて、サステナビリティに関する多岐にわたる取り組みや、その過程で直面した具体的な課題について、リアルなお話を聞かせていただきました。

1.持続可能性マネジメントシステムとインクルーシブな運営

大阪・関西万博では、イベントの持続可能性管理システム(ESMS)を2023年4月から運用し、2024年8月には国際規格ISO 20121の認証を取得しました。ISO 20121は、ISO 14000や9000のイベント版であり、PDCAを回し、ステークホルダーとコミュニケーションを取り、法令違反がないようにすることが求められます。また、ISO 14000と異なり、人権も含まれるのが特徴だそうです。

特にインクルーシブな万博運営が掲げられ、「人権デュー・ディリジェンス(人権DD)」を実施する初の万博が標榜され、人権DDは、ESMSの構築・運用や調達コードの運用などを通じて実行されました。

しかし、人権に関する取り組みは結構「難しかった」そうです。人権に関する通報受付窓口には120件の通報があり、ハラスメント(17件)や障がい者の権利(27件)、労働者の権利(20件)なども含まれていたそうです。(7月末まで)

特に閉幕後どうすべきだったか担当が議論していたのは「優先レーン」の運用で、パビリオンごとに運用が異なったり、付添人の人数、または車椅子から立ち上がれる人の利用などに関して、公平性についての議論や苦情がSNSなどで巻き起こりました。誰しもが納得する答えはなかなか出しにくいかもしれないですが、その溝を埋める対話が大事だと振り返られました。

2.カーボンニュートラル実現への挑戦

万博では、カーボンニュートラル実現に関する指標として、「低炭素な会場からグリーンチャレンジを世界へ」発信することが目指されました。

温室効果ガス(GHG)排出量の推計では、会場内での排出(Scope 1, 2)のBAU(対策をしなかった場合)は合計39,133 t-CO2eと見積もられました。対策としては、エネルギーをなるべく電気に寄せ(Scope 2)、排出係数ゼロの電力を使用することで、排出量を削減する目標とされました。

一方、サプライチェーン上の排出(Scope 3)では、来場者による移動(国内・海外から計2,820万人想定)がBAUで約2,858,622 t-CO2eと、圧倒的に大きな割合を占めていました。この膨大な量の排出量はオフセットが難しいため、「なるべく減らそう」という方針とされました。

また、未来を見据えた技術として、会場外に近い地域に二酸化炭素を回収し、メタネーション技術によって会場内の給湯設備などの燃料として利用する「カーボンリサイクルファクトリー」などの革新的な脱炭素技術が展示されました。

定例会の質疑応答では、建設・解体に係るCO2排出量(Scope 3のカテゴリ2「資本財」、BAUで361,700 t-CO2e)のインパクトの大きさや、その評価が会期後に確定することについて質問が寄せられました。

3.サーキュラーエコノミーと中小企業への影響

「リデュース・リユース、2Rでごみ減量」を掲げるサーキュラーエコノミーに関する指標に取り組みました。永見さんは、ごみに関しては「リサイクルではなく、リデュース・リユース(2R)をしっかりやる」という目標を立てたことにこだわったと説明しています。

具体的な取り組み例として、使い捨て買い物袋の配布対策、リユース食器の導入(フードトラックエリアなど)、マイボトルの利用促進(給水スポットを約86か所設置)、食品廃棄物削減に向けた食べきり呼びかけや小盛メニュー提供などが実施されました。

会期後の課題として、施設設備のリユースの取り組みが重要視されています。大屋根リングの一部(約200m)を残すことになったほか、万博サーキュラーマーケット「ミャク市!」を立ち上げ、シグネチャーパビリオンの設備や建材、什器・備品などの公募・入札を行いました。

4.万博と中小企業

さらに、万博は地域産業への活性化寄与に関する指標として、中小企業の発信機会、新たな共創を創出することを目指しました。協賛者のうち中小企業は157社に達しています(2025年2月現在)。中小企業向けイベントとして、中小企業基盤整備機構による体験型展示「未来航路」や、経済産業省による「Global Startup Expo」などが開催されました。永見さんは、万博は中小企業にとっても、技術開発・準備の加速化、認知度向上、海外・国内企業とのビジネス交流・マッチングの場として意義があったとお話しいただきました。

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