第44回定例会は、「生物多様性観点からの中小企業への影響と役割」と題して、外部講師を招きオンラインで実施しました。
以下は、その概要を研究会にてまとめたものです。
1.はじめに
生物多様性は、人間生活の基盤として、様々なサービスを提供してくれている存在であり、SDGsウェディングケーキモデルにおいても、自然資本は最も根底に置かれています。
地球資源の枯渇は人間生活に大きな影響を及ぼすうえ、企業における事業活動を含む人間の活動と生物多様性との間には、正負の様々な影響があるため、企業活動においても生物多様性への配慮が求められるようになりました。
そのきっかけとなったのは、2023年の昆明・モントリオール生物多様性枠組みであり、日本の2030年生物多様性戦略にもそのターゲットが盛り込まれています。
2.TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)とは
企業が生物多様性を経営戦略の中心に据えるきっかけの一つがTNFDの策定にあります。
TNFDとは、Taskforce of Nature-related Financial Disclosures の略であり、自然関連財務情報開示タスクフォースのことです。TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)の生物多様性版として、生物多様性に関連する財務上のリスクや機会を情報開示する枠組みが定められたことにより、世界的に求められつつあります。
開示義務があるのは世界的な大企業が中心ではありつつも、バリューチェーン上のリスクや機会をも考慮するリスク管理体制を構築する必要があるため、中小企業においても無関係ではいられないと思われます。
TNFDを代表するアプローチである「LEAP」は、発見する(Locate)、診断する(Evaluate)、評価する(Assess)、準備する(Prepare)というステップで分析することが推奨されています。
3.企業の事例
講師からは、大企業における取組事例として飲料会社と電気製品の例を、中堅・中小企業の取組事例として、外食産業や森林組合の例を挙げていただきました。
特に、外食産業における事例は、今後生物多様性と企業とのかかわり方を考えるうえで参考になります。
- 自社店舗で使用する米について独自の省農薬基準を設けて、契約栽培してもらうようにしている事例
- 生産者に水田の生き物調査を義務付け、生産者の生物多様性への関心を高め、配慮するよう要請している事例
4.ダイアローグ
最後に講師からは、下記の示唆を得て締めとしました。
- 気候変動同様に生物多様性に関する対応の要請が中小企業に対しても想定されるため、中小企業におけるサステナビリティ領域の担当者、事業サイドで働かれる方に置かれましても留意の上、事業に取り組んでいただきたい
- 大企業から要請があった場合にはある種、制度対応的に取り組む部分もあると思うが、なぜサステナビリティ/生物多様性が求められているか腹落ちした上で取り組むことが規制対応から1つ抜き出るためのきっかけと思う
- 仮にサステナビリティ領域について検討する場合、新たに取り組みを始めるのではなく、既存の取組の中からタネを探すことも1つだと考える
本例会を受けて、今後は当研究会としても、生物多様性を切り口とした企業への支援の可能性について検討できればと感じています。